2009.11.26
2009年10月26日から11月26日まで木村雅彦が、北京中央美術学院からの依頼で、中国最大のタイポグラフィの展覧会「Beijin Typography 2009」に出品しました。テーマは「タイポグラフィ、新しい生活との調和」で、日本からは、9人のデザイナーが出品しました。
「ふたつのトラヤヌス」トラヤヌス帝の碑文の研究とその展開
私
たちが使用している活字書体は、ひとつの時代に作られたものではありません。時代それぞれの社会や思想、技術に基づく価値観によって、模刻や復刻が重ねら
れてきたものです。とりわけ、ルネサンスや19世紀末など、時代の転換期において生じた混乱の中、先人たちは、必ず自らの原点に立ち戻り、新しい時代に繋
げてゆく試みを行ってきました。そのことが、今日のタイポグラフィの発展において、重要な意味を成してきたと考えています。
今回提示した「ふた
つのトラヤヌス」は、ローマン体大文字の源とされる「トラヤヌス帝の碑文」(113年)の拓本と、現代の技術や視点によって私が再構築した作品によるもの
です。また作品制作に至るまでに、碑文について調査・研究した著書「トラヤヌス帝の碑文がかたる」や、それを応用して作成した「年鑑日本の空間デザイン
2007」などを出展しました。
現在、私たちデザイナーは、新しいメディアの台頭による時代の転換期に立たされています。そこには多くの混乱や途惑いが生じているように見受けられます。そこで私たちは、先人たちに見習い、もう一度歴史を検証し、自らの立脚点を模索する必要があるのではないでしょうか?
私の研究と展開は、主にアルファベットの大文字の歴史と現代への繋がりについてですが、同じように書かれることと石などに刻まれることで形づくられてきた
漢字も、研究を深め、現代に引きつけることで、様々な可能性と展開があるということを中国やアジアのデザイナーとの共有したいと考えています。このように
「私たちのコミュニケーションの礎である文字」からあたらめて学び実践に結びつけることで、今回の展覧会のテーマである「タイポグラフィ、新しい生活との
調和」をともに実現し、未来に繋げるきっかけになればと思っています。